連載

【第6話】僕の性感マッサージは、犬の散歩以下だった

hahaha3

愛菜さんとの別れからしばらくの間、僕はさまざまなメンズエステを転々としていた。

新しい店に行き、新しい女性に会う。

けれど、愛菜さんと過ごしたような特別な時間は、簡単には見つからなかった。

考えてみれば当然だ。

メンズエステは風俗店ではない。

お金を払ったからといって、愛菜さんとの「逆マッサージ」のような展開になるわけではない。

僕は少しずつ気づき始めていた。

このまま理想の相手が現れるのを待っていても、何も始まらない。

もう一度、自分から動かなければならない。

二年ぶりの扉

夜の街を歩き、僕は見覚えのある扉の前で立ち止まった。

二年前に訪れた、あのBARだった。

初めて来た夜、僕は女性を目の前にして勃たなかった。

青い薬を飲んでも勃たず、男としての自信を粉々にされた。

正直、あのときの人たちに会ったら気まずい。

かなり気まずい。

「まだ勃たないの?」

などと聞かれたら、扉を閉めて、そのまま帰りたくなるかもしれない。

それでも、今の僕には以前と違うところがあった。

愛菜さんとの半年間で、挿入だけがSEXではないことを学んだ。

身体の小さな反応を見逃さないこと。

相手の気持ちよさを、一緒に探すこと。

僕には新しい目標もできていた。

――手と口だけで、挿入を超える快感を与えられる男になる。

そのためには、さまざまな女性の身体と反応を知らなければならない。

あのBARは、僕にとって遊び場ではない。

実戦形式の修行場なのだ。

もっとも、そんな崇高な志を胸に入店する客は、たぶん僕くらいだと思う。

意を決して、扉を開けた。

短冊に書かれた女性たちの願い

店内には、まだほとんど客がいなかった。

カウンターへ向かうと、見覚えのないバーテンダーが静かに頭を下げた。

「いらっしゃいませ」

話を聞くと、一部の常連を除いて、多くの客は一年から二年ほどで来なくなるらしい。

そして、また新しい客が入ってくる。

二年前に会った人たちも、今ではほとんど残っていないという。

僕はほっとした。

過去の失敗を知る者がいない。

ここでは僕も、新人としてやり直せる。

店内を見渡すと、七夕飾りが目に入った。

笹には、いくつもの短冊が揺れている。

この店では、女性だけが願い事を書けるらしい。

何が書かれているのだろう。

気になって読んでみた。

「SEXが上手な男性に会えますように」

「いっぱいイケますように」

「男性たちが、もっと上手になりますように」

……プレッシャーがすごい。

この店の織姫たちは容赦がない。

僕は短冊を見上げながら、心の中でつぶやいた。

――彦星代表として、頑張ります。

最初の挑戦者

カウンターに戻り、グラスの氷が溶けていくのを眺めていると、ほのかに甘い香りがした。

顔を上げると、一人の女性が店に入ってきた。

年齢は四十代前半くらいだろうか。

整ったボブカットに、シンプルなカーディガンとロングスカート。

派手さはないが、柔らかく親しみやすい雰囲気があった。

彼女はバーテンダーと気さくに話しながら、カウンターの端に腰を下ろした。

店内にいる客は、僕と彼女だけ。

今しかない。

愛菜さんとの半年間で身につけたものを試すときだ。

僕の心臓は少しずつ速くなった。

どう声をかければいいのだろう。

普通に会話をして、少しずつ距離を縮めるべきか。

それとも、正直に目的を伝えるべきか。

迷った末、僕は真正面から勝負することにした。

「あの……」

彼女がこちらを向いた。

「もしよかったら、性感マッサージのモデルになってもらえませんか?」

言った。言ってしまった。

会話の助走は、ほぼゼロだった。

彼女は少し考えるような表情を見せたあと、あっさり答えた。

「このあと、犬の散歩があるから」

終了した。

僕の新たな挑戦は、犬の散歩によって阻止された。

もちろん、犬の散歩は大切だ。

犬にとっては、一日の中でも楽しみな時間だろう。

頭では理解できる。

しかし、女性を気持ちよくするために半年間修行してきた僕としては、簡単に納得できないものもあった。

僕の性感マッサージは、犬の散歩以下だった。

自分のコミュニケーション能力の低さが恨めしい…

技術より先に必要なもの

彼女が店を出ると、店内には僕とバーテンダーだけが残った。

バーテンダーは何も見なかったかのように、黙々とグラスを磨いている。

僕はすっかり氷の溶けたグラスを見つめていた。

断られることは想定していた。

しかし、彼女の断り方はあまりにも自然だった。

まるで、

「冷蔵庫に牛乳がないから」

と伝えるような口調だった。

そこには迷いも、照れも、葛藤もなかった。

犬の散歩に負けた男は、何を糧に生きていけばいいのだろう。

沈黙の中、バーテンダーが手を止めずに聞いてきた。

「……もう一杯、いきますか?」

「お願いします」

今の僕には、反省より先に酒が必要だった。

グラスを傾けながら、僕は今回の問題点を考えた。

――あんな誘い方では、「おっぱいを揉ませてください」と言っているのと大して変わらない。

女性を気持ちよくする技術があっても、そこまでたどり着けなければ意味がない。

僕に足りないのは、マッサージの技術ではなかった。

女性と自然に距離を縮めるコミュニケーション能力だった。

何事にも、きっと王道があるはずだ。

僕はその日から、BARにいる男性たちを観察することにした。

彼らは、どんな話をしているのか。

どうやって女性との距離を縮めるのか。

そして、どのタイミングで五階へ誘うのか。

こうして僕の新しい修行――

「女性の誘い方」の研究が始まった。

第7話へ続く。

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